NorthWave

 前回は札幌の春の風景を思い出したけれど、冬もなかなか良いのである。雪が多い、そして寒い!それで何が良いのか分からないが、実はそのキンキンに冷えた清潔さと美しさにしゃんとした気持ちになるのがわりあい好きだったことを思い出す。それは記憶の中でのことで、実際にマイナス10度の世界が続くとうんざりしていたかもしれない。

 私は29歳で再び札幌に住むことになった。真冬、12月に友達の家に居候をさせてもらい、その間に仕事探しと家探しをしていた。世間は年末年始。すぐには仕事は決まらない。というわけで毎日毎日夕方から終電近くまでデータ照合のアルバイトをしていた。昼間は就職活動に充てるということになっていたが、応募する会社もなかなか決まらず、会社説明会に行き、書類選考は通ったがどうもやる気が起きず断ってしまったり、ハローワークで紹介される仕事が気に入らず応募しなかったり、自分で見つけて応募しても面接までたどり着けなかったりとなかなか苦戦していた。

 アルバイトが終わって帰る時には雪は深々と降り積もっており、雪かきで道路の端に寄せられた雪は壁のようだった。雪の壁を見ながら私の頭には何故か「再構築」という単語が浮かんでいた。それは雪が作る風景であり、私自身のことだったのかもしれない。気温は下がり足元はミシミシと音を立てる。空からはふわふわといつまで経っても降りてくる雪。空気まで凍りつくようだった。

 その頃、夜に札幌のFM局でやっていた番組が気に入っていた。DJの声は聞こえず、ずっと都会的なインストゥルメンタルのダンスミュージックが流れていた。私は普段ロックしか聞かないからそれが何の曲だったかも分からない。でも0時くらい、真っ黒な夜に静かに降り積もる白い雪。友達のマンションの窓から見える街の灯り、そしてFMから淡々と流れる温度の低いダンスミュージックが心を落ち着かせてくれた。その頃の私にあったのは、これからちゃんと働かなければ!という決意だった。自分で働いて生活をする、その当たり前のようなことがなかなか続かない自分、だけれども今度こそしっかりとした職を見つけ、1人で生きていかなければ、そう思っていた。

 結局、1、2か月で正社員の仕事は見つけられず、それでも部屋を借りて生活していかなければならないので派遣での仕事を得ることになった。なかなか崖っぷちにあった時期だけれども、思い返すと静かに降り積もる雪の景色とFMラジオ、今では爽やかな思い出にすら感じる。今後一生住む覚悟でいた札幌の冬はこの後1度経験するだけでまた移動することになったのだから、先のことは考えすぎても意味はないのかもしれないなと思う。