コロナかもしれない日記 1

5月29日(金)

喉の微かな痛み、奥に鼻水がある感覚、37.0℃。これを何とか収めたい。いつもお世話になっている耳鼻科のホームページを覗いてみた。コロナ終息まで、誰でも予約でき、その時間に診療してくれそう。「当院ではPCR検査はできません」とは赤く大きな文字で何度か書かれていた。そりゃそうだ。普通の街のクリニックだ。

久しぶりに行ったので問診票書く。

症状を書いて看護師さんに渡したら、「風邪症状があるので別室でお願いします」と例の部屋に連れて行かれる。私がよくインフルエンザの時に待つ個室。

順番が来て呼ばれて診察室に入ったら、先生もいつもの白衣にさらに防護服、メガネ。看護師さん達もみんなそんな感じ。

喉を見て、「少し炎症ありますねー」と言われる。5月は、喉が痛くなったり治ったりを繰り返してたので「今、結構早くできるので、一応コロナの検査しておきますか」と言われ、耳を疑った。でも、嫌ですと断るのも変。むしろ調べた方がいいに決まってる。

「は、はい…」

え?コロナ?インフルの検査と違うよな…。できるの?

また個室へ。そこへ完全防備の看護師さんが説明書類を持ってくる。3時を1分でも過ぎたら保健所は受け付けてくれないんですよ。ほら、この時計3時だけど、もうだめです。土日挟むので、月曜日に連絡します。何日の何時に検査できるか。

大きな総合病院の外にPCRセンターが設置されたのだそうだ。

それまでの家での過ごし方について、説明されぐったりしてくる。家でもマスク着用。家族と食事はしない。自分の部屋で食べる。食器は共用しない。風呂は最後に。トイレも本当は別にして欲しい…とかとか、手洗いや消毒についても、聞いたことのある説明をたくさんされる。

私がまるで何も知らないかのように。

私はずっと、気をつけてきた。マスク、手洗いもそうだが、むしろ、家に帰ったらリビングに入る前にお風呂に入って洗い流すようにしている。

服も洗い、手拭きやタオル類も毎日交換して洗って、不要不急の外出はしない。お店にも行かない。そのために生協にまた入った。仕事以外で外に出ない。エレベーターに乗らない。エスカレーターはベルトをつかまない。他色々…。ありとあらゆることをしてきたつもりだったのに、コロナ患者疑いとして説明を聞いてることが悲しくなってきた。努力した人がかからないというわけではないんだ。

看護師さんは明るく努めて話してくれているけれど、当たり前だが私を感染者疑いとして接しているのをひしひしと感じる。だからなるべく紙のやり取りも触れないように気をつけた。

そして薬剤師がやって来る。部屋の扉の前でカサカサと防護服を直す音、靴も履き替えている?すりガラスで見えないけれどかなり念入りに準備してからノックされた。

お薬の説明、支払い、手渡しされた袋も、薬剤師さんの手を触らないよう(もちろん手袋は着けていたが)下の方を持って受け取った。この瞬間から私は、みなし感染者となった。病院に来る前、午前中家に居た時の自分とは全く違う人間になった気がした。私はウイルスを撒き散らす有害物質になった。

帰ってから抗生物質と整腸剤を飲む。熱は相変わらず37.0℃と36.8℃くらいの間。

マスクをする。料理するが、自分の分はすぐに取り分けておく。

やっちゃんが帰って来たのでマスクを着用。この事実を伝えるとビックリはしていたけれど、別に私がコロナにかかったとは全く思っていないので、ふーんって感じだった。もし陽性でも、自宅で隔離生活は無理なので、料理作るのも私だし、うつすかもよ?と言っても、入院より、たとえ感染のリスクがあったとしても家に居て欲しいとのこと。肺炎などなければいられるかもしれないが、どうなるのか…。とにかく不安。

母に話しても、大丈夫でしょ、という感じだった。それでも寝る前には37.4℃になる。

怖い。

5月30日(土)

起きてすぐの体温は当てにならない。35.6℃。急に下がり過ぎだ。

動き出すとすぐに36.8℃になり、37.0℃になる。喉の違和感は取り除かれたように感じる。そのかわり、抗生物質による下痢が始まった。手足はほてる。冷房を入れたり消したり。

本を読んで過ごす。いろんな人(ほとんどが、PCRを受けられなくて、何ヶ月も微熱と倦怠感がありコロナじゃないかと不安を抱えながら生活している人)のツイートとかを読む。3回言って全部断られたとか。保健所に相手にしてもらえなかったとか、医者に鼻で笑われたとか、そんなのばかり。うちの先生は何なのだ!!事前情報と違いすぎてビビる。

けど、本当体調のことばかり調べてしまう。熱は37.0℃くらいで特に下がりもしない。23時くらいに寝ようとするが、ロゼレムもメイラックスレキソタンも効かず、ワイパックスマイスリーも飲んでもだめ。不眠症マックスで、これを書いている午前3時半。こんなに眠れなくなったのは本当に久しぶり。体を休めたいのに…。変な市販薬まで飲んだ。(睡眠改善薬とかいう)

 

5月31日(日)

体調はまあまあ。起きてすぐは36.8℃。その後37.1℃。微熱は続く。喉はかなり改善されている。気にならないくらい。実は微熱の怠さみたいのもない。ただ昨日あまり眠れなかったからボーッとしている感じ。

今日も病院から言われた通りただただ療養。洗濯掃除料理、やりながら休む。いつもと変わらない。急に感染者側の視点になり、世界の見え方が変わる感覚。私は仕事を休まなくてはならないし、その分の給料は減る。その後、すぐ復帰できるかも分からない。それは、職場の人が心配だから来ないでほしいと思えば長引くことになると思う。そういうのを考えていくと、ただの風邪とは全く違う。私という存在が他の人にとっては危害を加えてしまう脅威みたいになってしまうということ。

見える世界が一変するのも無理はない。人に不安を与える存在。考えると悲しくなってくる。陰性だとしても、検査を受けたという事実は変わらずあり、すぐには受け入れてもらえないんじゃないか?と心が沈む。

ハンセン病の方々の歴史を思う。差別について考える。私はそれを身をもって学ぶ機会を与えられたのかもしれない。制限された生活や人々の眼差しは、比べ物にはならないけれど。

本を探してるうちに諦めて、NHK +でベニシアさんを見た。目が見えなくなってきているベニシアさん。それでも園芸セラピーで、色んな植物を触ったり匂いをかいだりして感動している。心動かされる。ゆるやかな気持ちになって、それでリラックスして少し眠る。

17:00

某から連絡あり。現状を正直に伝える。家族は大丈夫なの?と聞かれたことで、ああ、私は完全に感染者扱いなんだ…とまた思ってしまう。自分の人生がネタとして消費されることに耐えられない。私の全く知らない人に「友達がコロナ疑いでさーPCR受けるんだってー」と話してるところを想像してしまった。被害妄想もいいところ。

抗生物質を飲んだら喉の痛み無くなったことを言ったら「それ溶連菌じゃないの?検査した?」と聞かれ「してない」と答えると「1週間薬飲んだら治るよ。大丈夫大丈夫」と言われ拍子抜けする。そうであってくれたらいいんだが。

19:30

体温は36.3℃まで下がっている。もう数字だけ見て一喜一憂する癖をやめたい。気持ちが持たない。私は、死ぬことが怖いのではないなと思う。人が怖い。無邪気な人も、噂好きな悪気ない人も、意地悪な人も、正義を振りかざす人も、丁寧に暮らしていて多分私の生活なんかを見下している人も、排他的な人も、内輪で盛り上がるパーティーピーポーな人も、無関心な人も、笑顔で裏切ってる良い人も、みんな怖い。

22:00くらい

37.5℃まで上がる。やっぱりまだダメみたい。寝るために薬何錠も飲む。コロナなのかもな。これから息苦しさとか咳とかが来るのかもしれない。インフルエンザみたいに想像つかないのが怖い。急変して死ぬ人もいる。

ちゃんと書き残しておこうと改めて思った。病気で死ぬなら仕方ない。誰のせいでもないんだから。決意とかも必要ない。子どももいないのが救い。チェルノブイリの話、「無知な人と諦めた人から死んでいった」って。うむー。どうなんだろうね。何としても生き延びてやるという気概を持たないとならないなと思う反面、世の中に対しての疲れも酷い。普通の人に比べればたやすいかもしれないけど、私は弱い人間なので。とにかく今日中に眠りたい。明日、病院から連絡来るかな…。

 

6月1日(月)

午前中、病院から電話が来る。PCR検査は明日の午後に決まったとのこと。予約票となるファックスを送ってもらう。

15:00

36.5℃。平熱。雨が降り続いていて、気温が下がったので体も楽になった。先のことばかり考えてしまう。陽性になったら仕事辞めようかなーなんて。だってみんなも不安でしょ。と思ってみたり。働くことは生活にメリハリもできて楽しくもあるけど…何かなー。何だかなー。今はポジティブに考えられなくなってきた。

『ダイエット幻想』を読んで衝撃を受ける。私達女は生まれた時から「痩せて可愛い」ことを絶対善として植え付けられるのだ。それが幸せになる方法。男に選ばれて初めて条件の良い結婚をし、生活を保証されるというわけ。不細工で勉強ができて良い仕事に就いても、結婚はできない。それは自分の考えというより、外(社会の側)の押し付けで、知らぬ間に自分がそれを望んでいると勘違いしてしまう。「かわいい」=幼いことだ。自立して、自分の意志を持った女は可愛くない。でも、「選ばれる」という最大の幸せを得るためには、可愛くなければならない。

恐ろしい…。文化人類学からのアプローチ。

20:00

体温を測る。37.5℃。通院後から夜はこの体温が当たり前になってしまった。抗生物質の副作用で「薬剤熱」というのがあるらしいが、それなのか?単に、コロナ症状が強くなってきたのか、それとも風邪なのか。または別の病気?がん等でも謎の熱が続くことがあるらしい。高温期というにはすこし高い気がする。

 

2へ続く(これからPCR検査受けて、結果が出るまで書きます)