空想の家

 昨年札幌から東京に引っ越してきた友達の家に初めて行った。そこはこじんまりした駅、緑多い住宅街。話を聞いている時に思い浮かべていた光景があって、彼女の家から見える景色、駅前の居酒屋とかが一瞬で崩れ去ってまたすぐに現実のものとして記憶が置き換わった。これは面白い体験だった。小説を読んで想像していた部屋に行った感覚だ。浮かべていた光景とは違ったのだけど、想像はどこか甘いところがあり、完全に捉えきれなくてぼんやりしている。それが現実にその場所で過ごすことで違和感なくスパンと切り替わってはっきりとした輪郭を持つのだった。人の家は非日常で、ここで暮らしたらどんな気持ちなんだろうと想像する…。

 そして部屋でのんびり語り合って過ごす時間は、一瞬にして10代20代に一緒に過ごした日々を思い出させた。高校時代がありありと浮かぶ。今が不自由というわけではないけれど、それ以上に何でも実現できると思っていた頃。あっという間にその時代に心を置くことができる。

 友達が最近女性専用のサウナに行ってきた話を教えてくれた。サウナ、そしてお風呂に入ってのんびりとくつろぐ。お酒を飲んだり食事をしたりもできるらしい。そして休憩所があり、そこに宿泊もできるのだとか。その話を聞いている時に私は今度は女性専用サウナの景色を思い浮かべていた。いつか答え合わせをする時が来るのかどうかはわからない。でも、人から話を聞く時にその光景を思い浮かべるのが好きだなあとしみじみ思った。

 思うに人は結構記憶の中を生きていることがある。過ぎ去ったことを後悔している時もあれば(これは一人の時が多い)、誰かとあの頃はこうだったねと語っている時は楽しかったことが多い。記憶で感情が左右されるのならばできるだけ楽しかったことや生き生きしていることを思い出したいなと思った。