音楽と記憶

 どうして音楽というのはその時期の記憶をありありと思い出させるのだろう。普段意識していないのに、何十年も前の曲がふとラジオから流れてきて、わあ!と思うことがある。

 私は今年5月、ゴールデンウィーク明けからラジオを聴き始めた。なぜ聴き始めた時期を覚えているかというと、G.W中にジェーン・スーの『私がオバさんになったよ』を読んで「これは面白い!なになに?スーさん毎日ラジオをやっているんだ」とTBSラジオ「生活は踊る」を聴いたのが始まりだからだ。

 それから他の時間帯でも散歩をしながら、家事をしながら、気軽に聴くようになった。すると忘れていた曲がすっと流れてくることがある。今私のスマホに入っている音楽なんてここ数年に興味を持ったものだ。そして過去に好きだったりよく聞いていた曲なんてすっかり忘れていることがほとんどだ。だから記憶の扉を有無を言わせずこじ開けてくる音楽にびっくりする。散歩の途中にコンビニに寄り、飲み物の棚を眺めている時、ベッドの上で何気なくくつろいでいる時、台所で食器を洗っている時、私はあっさりと中学生の頃の風景に放り込まれる。バイトしていたCD屋の店内にタイムスリップする、そんな感じ。音楽は見ていた景色だけでなく感情もありありと思い出させる。私は人生でいろんな場所に立ち会ったんだな。

 思い出に浸るのも良いけれど、この音楽と記憶システムを利用してポジティブな刷り込みはどうだろう?と思い始める。この音楽を聴くとすっきりとした気持ちになる。この音楽を聴くとやる気がみなぎる。この音楽を聴くと健康になる。この音楽を聴くと成功する…。なんか怪しい…。多分そういうのを利用してある種の洗脳もできるのだと思う。けれど、私はきっと音楽から想起されるノスタルジーに惹かれているのだと思う。その時代の私を思い返して。

 「今」はいつも一番大変だし辛い。「過去」に居た頃はその頃が「今」だったわけで、やはり一番大変だし辛かったはずだ。でも今現在ここに立った時、それでも意外と楽しかったな、幸せだったのかもな、と再評価する感じ。思い出したくない辛い過去もピンチも、通り過ぎて今生きている。そのことが結構すごいことなのかもなと思う。きっと今聴いている曲だって何年か先にはずっと懐かしい風景に変わる。今大変だとか辛いと思っていることもすっかり忘れていて、きっとラジオなんかで流れてきた曲で思い出すくらいなんだろう。