ウェディングドレスの裏側

 2日間だけの短期アルバイトの募集を見つけた。ウエディングドレスの試着のお手伝いである。これから結婚する幸せいっぱいの2人がやって来て、花嫁さんが数種類のドレスを着てみる。私はファスナーを上げる。ティアラや真珠のネックレスをつけてあげる。わー綺麗!!と褒める。社員さんがいるレンタル予約の受付コーナー案内する。以上だ。

 20歳の私はその姿をどこか遠い世界で行なわれていることのように見ていた。ウエディングドレスを着たい!と強く思ったことがないからだ。なんだか自分には分不相応な気がしていた。そういうのは元々女らしくて綺麗な人がさらに綺麗にして身につけるものなのだと思っていた。

 たった2日間だけのアルバイトなのに、強烈に覚えているのは女社長の商魂たくましくどぎついキャラクターのせいだ。朝礼で女社長が鼻息を荒くして「ビジネスは遊びじゃないんです!!」と叫んでいる時、社長から誰かが怒られている時(それも顔がシャキッとしてない!ぼんやりしている!という言いがかりみたいな発言)、私は心底「社会に出るのが嫌だ」と思った。正社員って大変だなぁとも。みんなしんとして真剣に社長の話を聞いていて、返事も「はい!」とテキパキ言う。今思えばどっかのブラック企業みたいな光景なのだが、私の中では就職するイコール、こういう「ビジネス」という世界に入ることだと思い込んでしまった。怖いなぁ。

 私は特に何か困ったことも怒られることも目立つこともなく2日間を過ごした。でもその裏で社員さんが社長からガミガミ言われている光景や、夜遅くなってもまだ帰れず仕事をしている姿を横目に「お先に失礼しまーす」と帰る時の気持ちを今も思い出すことができる。就職って大変だな、社員さんって大変だな、私には無理だよな、私は関係ないよな。解放された夜の帰り道、キラキラした街を歩きながらそんなことを思っていた。