初めてのアルバイト

 記憶を呼び覚ますうちにいろんなバイトをしてきたことを思い出した。今数えると31もある。もしかするともっとあるかもしれない。ここからはそれを一つずつ振り返ってみようと思う。

 

 初めてのアルバイトは高校を卒業し大学に入学した1994年春。親からの仕送りもあり、特にお金に困っていたわけではないけれど、大学生になったらバイトをすることが人脈も作るし、あれこれ動いて忙しい自分を演出するような、言ってみればステータスのような気がしていたのかもしれない。求人誌を眺める。そこにあったのはこれからオープンするという書店だった。とある本州の地方都市で、多分だけれど時給700円くらいだったと思う。働いたことがない私には相場はわからなかった。でも、どうせやるなら本屋さんで働きたい!ただそれだけだった。オープニングスタッフのメリット(いわゆる、全員が一緒にスタートなので面倒な人間関係がなくこれから築いていける)も考えたことがなかった。

 まず書店に電話する。受付の女性に「もう人数は集まったので受付を終了している」と言われる。でもなぜか話しているうちに社長と会ってもらえることになった。なぜなのだろう。もしかしたら私があまりにがっかりした声を出してしまったのかもしれない。日時と場所を指定され、何も考えず手ぶらでそこに行った。社長の家の応接間だった。

 「では履歴書を」と言われ、私は何のことだか分からなかった。来てくれと言われたから行ったのだ。リレキショって何?

 当時の私は本当に世間知らずであった。高校時代も親元から離れて暮らしていたため、履歴書についての話をしたことがなく、一緒に下宿していた友達も誰もバイトをしていなかったのである。

 しかし社長は優しく、おそらくはものすごく天然、たくさん笑って和やかに面接は終了した。数日後、電話が来る。なぜか合格である。履歴書を持たないで面接に行くような輩が、応募者殺到で締め切るような書店に受かってしまったのである。その後、しっかり履歴書を書き、また社長に会って渡すことになる。しかし趣味特技の欄に「歌」と書いてしまった18歳私。単に週5でカラオケに行っていただけのことだったが、社長は「はー!短歌ですか。これはこれは」と感心し、国文学専攻で「創作演習」で毎週俳句を作っていた私はそれもできます!と調子に乗ったことを言うのであった。

 そして週に3回夕方から閉店までの書店でのアルバイトは始まった。