本屋さん

 私は生まれて初めてのアルバイトをすることになった。確か月水金の夜だった。その頃はTシャツに短パンそれにエプロンをするだけで良かった。今はそんなラフな書店バイトはいないと思う。少なくとも長ズボンに襟付きのシャツは着なければならないだろう。昼間は主婦パートの方が多く、品出しなども昼間に終わっている。なので夜はレジがメイン。気楽なものだった。雑誌の立ち読みが多い。学生が勉強のために参考書や専門書を買っていく。隣のCDコーナーでは大流行中の音楽が流れている。小沢健二スチャダラパーの「今夜はブギーバック」だ。「LIFE」が発売され、爆発的に売れていた。私はスクリーン部という映画を製作する部活をやっており、そこで監督をしていた友達からオザケンのCDを勧められたばかりだった。私はオザケンの曲を口ずさみながら働いていた。

 我が書店は、その街に住む学生御用達で、毎日大学生が来ていた。街の若者のほとんどがその大学の学生というほどに街にとって大学の存在は大きかった。そして月水金の夜のバイトを一緒にしている相棒も同じ大学の先輩であった。私たちはいつも2人で騒いでいた。レジカウンターの中はステージのようなもの。笑い話が過ぎて、お客さんが思わず吹き出してしまうこともたまにあった。自由すぎたのである。またある時は、社会人のお客さんがバイト後にご飯に誘ってくれることもあった。(今思えばただのナンパかもしれない)

 ほとんど遊んでいた記憶しかない。このバイトで疲れたとか大変だったことが思いつかない。レジ閉めすら社長が来て計算していた気がする。品出しもしない、掃除もそんなにしない、ただお客が来たらレジ。こんなバイト、今あるならやってみたい。

 バイト終わりに書店の駐車場で先輩とスケボーの練習をしたことを覚えている。明け方まで遊んで、そのまま電車に乗って町田まで行って、私は初めて朝マックというものを知った。私は同じ学年でなかなか気の合う友達ができず、先輩とその友達とばかり遊んでいた。何もかもがこれからだという時期だった。特に努力するわけでもない、騒いで楽しむことが仕事の、モラトリアム期の始まりだった。