読書としごと

 

Passion ケアという「しごと」

Passion ケアという「しごと」

 

『Passion ケアという「しごと」』を読む。著者は親からの虐待被害者であり、10代から幾度かの性被害者、助けてくれて結婚したはずの夫からのDV、再婚相手からもDVを受けて息子を連れて逃げており、介護現場で認知症利用者に心救われるも、管理者からのパワハラにも何度もあい、転職を余儀なくされている。介護の過酷な労働環境、セクハラの数々、目の当たりにする虐待、高齢者や障害者への虐待や殺人のニュース、戦争、慰安婦問題、母子寮、ホームレス支援など関わってきた様々な福祉経験と現場の話を日記や考察などの形とし書籍化したのが本書だ。

生の声。あまりにも苦しい。得てして福祉の支援者や、心理職のカウンセラー自身が生きづらさを抱えていることはよくあることで、支援を必要としている人を「助ける」ことで自分も救われるという共依存関係なのかもしれないなと思う。ケアに関わらずにはいられない人。「健常者」と渡り歩くことに苦痛を感じる支援者も多いのは確かだ。

私の場合は虐待や暴力の被害にあったことはないのだが、自分自身の社会で生きていく能力の弱さのため、「会社」みたいな組織にどんと居て、バリバリやるということが難しく感じる、というか、そういうことに興味を持てずに来てしまった。初めて「嘘じゃない」自分で働くことができたのが福祉の現場だった。

高齢者の訪問介護も、障害者の就労支援や生活支援の現場で働いたけれど、著者のような目にあったことはなく、けれど、世の中で言われている劣悪で誰もやりたくない底辺の仕事、いろんな人から見下される仕事、のイメージはこの本の中で描写されているのが近いのかもしれないと思う。私もたまに「障害者支援の仕事で」と言うと「大変だね(自分には無理というニュアンスで)」と言われることがあるけれど、今まででの人生で一番いい給料をもらって、しかもだらだらと楽して、特にマニュアルもなく自由にやらせてもらっているし、非常勤でありながらやりたいと思った企画もすぐ実現させてもらえたりと、恵まれている。

私は福祉の仕事を始めて10年になるけれど、そりゃあ疲れることはあっても、利用者を憎むこともなければ、いろいろ笑ってすり抜けてこられた。時に病むことはあるが、やっぱり他の仕事を…とはならない。なれない。会社のキッチリとした厳しさに比べると福祉のゆるさというのは私には居心地が良いのだ。福祉がゆるいと言って内容を理解してもらえるのは、やったことがある人だけだと思う。

この業界は、利用者の人権を守り、より良い暮らしを目指して一緒に過ごす。それだけで立派な仕事になるんだもの。だってそれって当たり前すぎないか?

ノルマも競争もなく、引き起こされる珍事はネタとなり、語り継がれる。支援をしているようで助けられることも多々。決して上に立つでもないへり下るでもない、「人間関係」が仕事、である。

この本を読み、社会問題となっている「大変な介護現場」の雰囲気は知ることができた。そして、弱い者への暴力の連鎖、立場を逆転させた利用者からの暴力、その中で奮闘する人たちがいるのに、変わらない待遇、国の考えも。

しかし、この本は何よりも、著者自身の苦しみと愛が詰まった自伝であると言えよう。ケアの仕事に対する熱い思いと平和を願う気持ち、そして自分の問題を解決し、人生を切り開いていこうとする姿に、こういう人が現場にいてくれてよかったと思わずにいられない。