夜のお仕事

 効率よく稼ぐことをしようと思った。働く時間が短くたくさんお金をもらえることを。怖いもの知らずの19歳はコンパニオンのバイトを始めた。でもやっぱり一人では心細い。高校時代の友達と一緒に応募した。時給は当時で1000円くらいだからそれなりに良かったのだと思う。15年くらい経った今も北海道の最低賃金は835円だ。

 内容は単純、に思えた。自宅までワゴン車で運転手が迎えに来てくれ、その車に乗って市内から外れた大きなホテルへと向かう。ホテルの宴会場で酔っ払った客にお酌する。誘われたらカラオケルームやら部屋での二次会に参加してその分もお金をもらう。

 しかし世の中そんなに甘くない。父親ほどの年齢の、しかも酔っ払ったおじさんと何を話せばいいのだろう?そして気に入ってもらえなくては二次会のお誘いはないのである。そんなことをうまくできなかった私はすぐに嫌気がさした。今だったらもっとうまくやるだろう。もっと年上の、おじいちゃんの介護だってできるくらいだ。しかし当時はまだ人生経験が浅かったし心が綺麗すぎた。本当に嫌な思いしかしなかった。世の中の大人の男の気持ち悪い部分ばかりが目に付いた。

 カラオケを歌ってチップをもらえるなんてこともあったが、そんなことよりも色気が大事な商売。事務所のママに言わず髪の毛を赤くしショートヘアにしてしまい、ガッカリされた。先輩たちは確かに黒や茶髪のロングヘアであった。もしかするとそういうのに迎合しないぞという私なりの対抗心だったのかもしれない。けれど気に入ってくれるようなマニアックな客はほぼいなかった。

 ある日、友達だけが二次会に誘われた。誘われなかった私はストレートロングヘアの先輩と2人でバーラウンジに行った。そこで時間を潰して、二次会組の仲間の仕事を終わるのを待つのだ。先輩はカウンターで髪の毛をかきあげて細長いタバコを吸っていた。今思うと、先輩はちょっとバブリー。私は赤毛猿である。ショッキングピンクの制服に赤毛。これはもうコントの世界だ。先輩は美人だしもちろん客ウケも良いだろう。ただ私よりも10歳くらい年上だった。この世界では年齢も大きく人気に影響する。

 先輩は「あたしも最近疲れてきちゃってさー。二次会行かないで飲んでるのが幸せなんだよねー」と本当とも強がりとも取れることを言ってケラケラと笑っていたことを思い出す。先輩ほどの人が二次会に誘われないこともあるのだ。

 二次会メンバーの仕事が終わり、数人でまたワゴン車に乗り込む。疲れて寝ているコンパニオンもいる。運転手はコンパニオンを家まで送り届けるのが仕事だ。一人ずつ下ろしていく。そして私の家に着き「お疲れ様でしたー」と真夜中、ほぼ朝方に帰宅し眠った。

 今思うと女の世界なのにギスギスした感じはなく、お姉様方はみんな優しかった。一番年下というのもあっただろう。先輩たちと競う見た目でもなく安心だったのかもしれない。しかし、もちろんすぐに脱落。事務所からは辞めた後も「今日だけでもいいから!」と電話が来ていたが戻ることはなかった。とにかく当時の私に言いたい。先の見通しが甘いんだよ!けれどその頃は、いろんなバイトを体験してみたいという好奇心が勝っていたのだった。そして珍道中はまだ続くのである。