銀座の夜

 2007年、東京での生活が始まった。

 何年か前に夫と泊りがけで銀座に行ったことがある。有楽町や銀座で買い物をし(と言っても基本買うものといえば本である)、夕食に好きなものを食べ、くつろいで眠る。ただそれだけの旅行とも言えないような1日だ。銀座の夜の景色はなんとも言えず、それは銀座らしいしっとりさがあり、人混みにもならず街は落ち着いていて、私は気に入っている。部屋に戻ってから「やっぱりコーヒーを飲みに行こうか」なんて喫茶店に行くのも普段の生活とは違ってなんだかそれだけで面白い気持ちになる。

 橙色の間接照明、まばらな客と香ばしいコーヒー豆の香り、ジャズが流れるお店でコーヒーをゆっくり飲む。夫は新聞をめくっている。時間の流れが緩やかになる。特に会話をするでもなくただその空間に居ることに感覚を研ぎ澄ませる。

 部屋に戻ると、窓から見える夜景が日常から解放してくれる。バスルームで浴槽に浸かりながらも夜景を眺めることができた。街の灯りひとつひとつに人々の暮らしがあること、オフィスビルやお店に人がいることが尊いことに思える。そこにはいろんなドラマがあることだろう。光のある窓ひとつひとつに日々が宿り、いろんな感情が渦巻いている。この俯瞰した視点を手に入れるだけで何かすっと心が楽になる感覚があった。

 日常に埋もれて辛くなった時にはきっと、こういった非日常性が大切なのだと思う。疲れていて休息が必要なのであれば「また頑張ろう」と思えるだろうし、悩んでいて結論を出そうとしているのであれば何かを決めるきっかけにもなることがある。視点を変えると見えてくることがある。

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